フィリップ・K・ディックのSF小説『死の迷路』(A Maze of Death , 1970)を読んだのでその感想を書いておきます。
この記事ではストーリーについてはあらすじを紹介するに留めます。これから読む方のモチベーションを損なうような、プロットのネタバレは一切ありません。
ネタバレを含まないイントロの紹介
本作『死の迷路』はSF小説を土台としつつも、ディックの作品の中ではサスペンス色の強い作品です。
あらすじを簡単に書くと(上の写真のとおりなのですが)、よくある「何とかの殺人」風の推理小説のようなシチュエーションが舞台となります。
無関係の14人がとある惑星に配属になるものの、そこでの役割や目的については一切不明。
惑星の外との連絡も取れず、自力で脱出もできない状況下であれやこれやと事件が起きていく、というのがイントロです。
かつて僕は綾辻行人の作品をよく読んでいたのですが、死の迷路を読んでいてそれらを思い出しました。
SFサスペンスとして面白い
ネタバレを避ける都合上詳しくは書けないのですが、本作はプロットが割としっかりしていると思います。
ディックの作品はプロットがあまり意味を持たないものが多い気がするのですが、その点本作はオチがどうなるのかを想像しながら楽しく読み進められました。
あらすじ以降のことはここには書かないので、実際に読んで確かめてみてください。面白いです。
プロットが明確な分、本作は映画化したら面白そうだとも思いました。小説だけでなく映像作品にも合うと思います。
「ブレードランナー」(アンドロイドは電気羊の夢を見るか?)や「マイノリティ・リポート」のようにSF映画として実写化してほしいです。
ストーリー上、ちょっぴり神学的なテーマも織り込まれてきます。ただ僕は個人的にそういったテーマには興味がないので、あくまで小道具の1つとしてあまり深く考えずに読みました。
神学的要素については訳者による解説があとがきにあります。これは本作がディック作品の中でどういう位置づけにあるか理解する役に立ちました。
地の文に特徴あり
著者による序文でも書かれているのですが、本作は地の文の書き方に特徴があります。
ふつう小説というのは「」内が登場人物のセリフで、それ以外の地の文はストーリーテラーである第三者の視点から書かれるものです。
本作では地の文でも登場人物の思考がそのまま表現されていることが多く、序文ではこれを「主観的」であると書いています。
もちろん、ふつうの第三者の視点から書かれた地の文もふつうに出てくるので、特別変わったスタイルの小説というわけではありません。
こういった表現形式はディックの他の作品でもないことはないですが、僕が読んだ範囲内では、本作ほどこういった形が取られた作品はなかったと思います。
個人的にはこの「主観的な」スタイルは読みやすく感じました。キャラクターの思考をスムーズに追っていくことができます。
おわりに
本作『死の迷路』が発表されたのは1970年のことです。
代表作『アンドロイド~』(1968)や、個人的に特に気に入っている『ユービック』(1969)とほぼ同時期の作品と言えます。
代表作ほど有名な作品ではありませんが、本作もディック作品の1つとして順当に楽しんで読めました。ディックが好きな方であれば読んで損はないはずです。