カミュ『ペスト』の感想【訳に難ありだが、コロナ禍でこそ読みたい】

フランスの作家アルベール・カミュの代表作『ペスト』を読んだのでその感想。

カミュ ペスト 表紙

カミュ ペスト 裏表紙

アルジェリアの都市オランでペストが発生。封鎖された街で人々が苦悩する様を医師リウーの視点から描く、というのが本作『ペスト』のあらすじになります。

ペストは海外文学小説として有名な作品ですが、今これを読もうと思ったのはコロナ禍がきっかけでした。

数年前にカミュの『異邦人も読んだことがあります。作品の雰囲気は好きだったので、同じ作者ならこちらも楽しめるかなと思ったのも理由の1つ。

僕が『ペスト』を読んでこの記事を書いている2021年1月現在、世界中はコロナ禍の真っ只中です。東京では感染者がまだ増え続けている段階で、僕が住んでいる北海道でも油断できない状況が続いています。日本で本格的に流行してから1年くらい経ちますが、収束の気配が微塵も感じられません。

小説が扱っているテーマを考えると、本作『ペスト』は今だからこそ読む価値が高まった作品ではないかと思います。

後述する面白さを考えると、特に海外文学に興味がある方であれば、この小説は平時でも読む価値は十分にあります。

しかし、コロナウイルスに翻弄される現実と『ペスト』の世界をリアルタイムで重ね合わせられるのは(良くも悪くも)今だけです。

最近立ち寄った本屋でも見やすいところに陳列されていて、手書きのポップまで作られていました。かなり売れているのではないかと思います。

現実と比べると面白い

個人的にこの小説の一番面白いポイントは、現実との共通点をいくつも見つけられることでした。

実存主義とか不条理などといった難しいテーマは正直僕には分かりません。本来そういった側面から読むのが正解なのでしょうが、僕はかなりエンタメ寄りな読み方をした方だと思います。

ペストが蔓延していく様子は、街にネズミの死体が見つかるシーンから始まります。この時点では死者は出ていないので誰も危機感を抱いていません。何人かの市民がよく分からない症状で死ぬようになってからも、熱病か何かみたいな形で片付けられます。

このあたりの危機感が薄い時期は、現実世界で「中国で何か感染症が流行ってるらしい」と日本人が認識していた時期の空気感に近いものを感じました。大体2020年2月頃。

危機感が薄いとはいっても、小説でも現実でもその段階では仕方のないことだと思います。というのも、実際、対岸の火事で済んでしまう感染症は5年に1回くらいの頻度で海外で起こっているからです。

ペストが本格的に広がって認知されていく過程の市民の動揺も、現実世界のそれとピタリと重なります。
(ただ小説の時代ではネットがない分、玉石混交のネットの情報に惑わされていないだけ冷静に見えました)

こんなふうに、感染症拡大・縮小の各フレーズで人々の反応に共感できるのが、分かりやすい面白さだと思います。こういった読み方でも十分楽しめるのではないかと。

反応が一様ではないのもリアル

感染症そのものはネガティブなものです。

小説では死者が出るのはもちろんのこと、都市が封鎖される、離れた家族に会えない、物価が上がる、といった被害を人々は被ることになります。

しかし物事には常に正と負の両面があるもので、ペストの発生が利益につながった人がいるのも事実。

ある登場人物はペスト発生のどさくさによって逮捕を免れ、封鎖された都市での密輸ビジネスによってかなり潤います。そして収束期にはその現実を受け止めたくないと思うようになるのですが、利益構造を考えるとその心理はよく分かります。

現実世界においても、コロナが流行ったからこそ利益が得られた企業が少なからずありました。

例えばコロナ禍では外出自粛によって観光や飲食、エンタメ業界は壊滅、そうでなくても厳しい状況です。一方で巣ごもり需要にマッチしたモノ・サービスを提供していた企業はボロ儲け。

些細な点かもしれませんが、物事を両面から描いているのはリアルで作り込まれていると思いました。

訳のせいか非常に読みづらい

この小説の最大の難点は、とにかく読みづらいこと。

日本語として「ふつうそうは書かないだろう」と思うような箇所がたくさんあります。接続詞が何度も出てきて一文が異常に長いこともしばしば。

それでも日本語として破綻しているわけではないので、世界的文豪の作品だから難しく感じて当然なのかなと思ってなんとか読みました。
(数回挫折しかけましたが)

読み終わった後にAmazonのレビューを見てみると、「訳に問題あり」という意見が多かったため、理不尽に読みづらいと感じたのはどうやら僕だけではないようです。これはホッとしました。

ペスト(新潮文庫) – Amazon

新潮文庫の『ペスト』が発行されたのは昭和44年(1969年)であり、それから2020年までのおよそ50年間、訳は一度も改定されていないようです。訳された時期が古いのも、読みにくさの一因になっているかもしれません。これを機に新訳求む!

カミュ ペスト 発行時期

読みにくいのは確かですが、訳し方うんぬん以前の内容そのものは非常に興味深いと思います。コロナ禍の今は特に。

読書好きでまだ読んだことがなければ、この機会に手にとってみてはいかがでしょうか。

 

カミュの作品では『異邦人』の方が短いのでとっつきやすいです。