アイザック・アシモフ『ファウンデーション』感想【レビュー】

アイザック・アシモフのファウンデーションシリーズの第一巻にあたる『ファウンデーション』の感想です。

早川書房出版の、岡部宏之氏訳に基づいています。中古で買った96年15刷なので、今手に入るものとは違う箇所もあるかもしれません。

この記事を書いている時点で、ファウンデーションは少なくとも3回は通しで読んでいます。いくら面白いといっても、人生で何回も読もうと思える小説はそうありません。本作はそれくらい味わい深く、オーウェルの『1984』などと並んで僕がもっとも感銘を受けた作品の一つです。

 

ファウンデーションという作品を一言で表すなら、「SFとミステリの素晴らしい融合」であるといえます。

本作は基本的にはSF小説なのですが、SFという側面はファウンデーションの物語を構成する面白さの半分でしかありません。なぜなら、本作の真の面白さはSFという土台の上に築かれた巧妙なミステリ的展開にあるからです。

分かりやすい例として、読書好きな方であれば推理小説を最後まで読んでそれまでの伏線が回収され「そうだったのか!」とハッとした経験が一度はあるでしょう。こういった知性に訴えかける面白みこそがミステリ小説の醍醐味であり、それはファウンデーションにも共通しています。

実際、ファウンデーションはそれほど世間一般的なイメージのSF作品ではないように思います。例えば、宇宙船でドンパチしたり、宇宙空間の幻想的な情景を長々と描写するようなシーンはほぼありません。僕はSFは好きなのですが、こういう内容であれば、正直ここまで楽しめなかったでしょう。

本作について僕が常々思うのは、SFだからという理由で読まないのは非常にもったいないということです。普段SF小説に全く縁がなくても、特に推理・ミステリ小説を好む方であれば、騙されたと思って読んでみてください。

ところで表紙には宇宙船がドカンと描かれていてこれまたいかにもSFという感じがしますが、あのイラストは内容に対してかなりミスマッチだと思います。本を手に取ろうとしている人に間違ったイメージを与え、それなりの機会損失になっているのではないか、という疑念が拭えません。(かといってどんな表紙にすればいいか僕は思い浮かばないのですが)

 

ファウンデーションのもう少し具体的な内容について触れるなら、その広大なスケール感が大きな魅力の一つだと思います。

話としては、科学者ハリ・セルダンは彼が独自に築き上げた「歴史心理学」によって、現在繁栄を極めている銀河帝国が崩壊の途にあることに気づきます。歴史心理学は人間集団への刺激や反応を扱う数学であり、これによって銀河帝国全体が今後どのような状態になるかが分かったのです。

彼が気づいた時点で、帝国の崩壊は既に避けられないものになっていました。しかし彼が残した「セルダン・プラン」によれば、帝国崩壊後の混沌とした無政府期間を3万年からたった1000年に短縮出来るというのです。

そのために彼は、人類が持つあらゆる知識を集約するべく「ファウンデーション」と呼ばれる科学者の集団を銀河の対極にある最果てに2つ設置したのでした。

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SF小説は色々と読んできましたが、ここまで大きなスケールで、なおかつセンスに満ちたストーリーを考え出せるとは、アシモフは本当に天才としか言いようがありません。こんなストーリーは凡人には絶対思いつけない。本当にすごいの一言。

個人的に特に面白いなと思ったのが、ハリ・セルダンの「歴史心理学」という架空の学問です。

この学問を使うことで、銀河帝国が崩壊することが予想できたわけであり、その後なるべく早く第二帝国を再興するためにどうすればよいかも導けたわけです。

もちろんフィクションなので実際にそういう予想は出来ないとしても、理系学部出身の僕からすると何とも興味深い、理系心をくすぐる概念だと思いました。アシモフの教養の深さとセンスの良さにはただただ圧倒されるばかりです。

 

まとめると、『ファウンデーション』は紛うことなき名作だと思います。SFというジャンル関係なしに、読書が好きな方であれば一度は読んでほしいです。

そして本作はファウンデーションシリーズの第一作目なので、気に入ったら次作の『ファウンデーション対帝国』もぜひ。

 

僕がこれまで3回読んだのは全て岡部宏之氏の訳によるものですが、この記事を書く少し前に創元SF文庫から新訳が出ました。こちらはまだ未読ですが、今から読むのであれば新訳を手にとってみるのもありかもしれません。